『いつか』通し稽古レポート

2019/04/03いつかblog

『いつか』通し稽古レポート

「いつもは小学校の教室みたいなのに、今日はシーンとしちゃって(笑)。やるときは、やるんだね」
 「いつか~one fine day」の出演者8人を前に、演出家の板垣恭一が緊張を解きほぐすようにジョークを飛ばしました。3月29日。この日は初めての通し稽古。これまで場面ごとに区切り細かく練習していたのをベースに、最初から最後まで一気にノンストップで演じてみる稽古です。いつもより少し早めに稽古場にやってきて、台本を見返したり、セリフをつぶやいたり、いつもよりも少し緊張気味のキャストたち。
「失敗しちゃったり、セリフ忘れちゃったりしても、気にしないでください。そういうことで、始めさせていただきまーす」という板垣の合図で通し稽古がスタートしました。

物語は「うつしおみ=現人」の曲から始まります。前奏が流れる中、腕時計を眺めるテル(藤岡正明、ヘッドフォンで音楽を聴くトモ(荒田至法)、傘をくるくる回すマドカ(佃井皆美)、そしてテルの横に立ち彼を見つめるテルの亡き妻マキ(入来茉里)……。

舞台は保険会社の廊下に移り、保険調査員のテルが、後輩タマキ(内海啓貴)の担当だった仕事を引き継ぐよう上司のクサナギ(小林タカ鹿)に命じられるシーンへ。交通事故で植物状態の女性エミ(皆本麻帆)の事故の原因を調べるという重苦しい案件に、気乗りしない表情で病院へ向かうテル。クセのある性格のエミの友人トモや、気が強くで心を開かないマドカに戸惑いつつ、仕事は膠着状態に。さらに会社に戻ると、中間管理職のクサナギに高圧的な態度を取られたり、後輩のタマキに振り回されたり。

妻を亡くして気落ちしたテルを演じる藤岡の陰のある演技が、見る人を引きこみます。と、同時にコミカルな要素もしっかりあるのが、板垣ならではの演出手法。病室で踊る粗削りなトモの歌、一癖ありそうなクサナギのニヒルな笑顔、タマキのイマドキの若者あるあるなセリフや行動が、時にくすっ、時にどっと笑いを誘います。

そして、酔ったテル(渾身の迷演技!)の前に、意識がないはずのエミが突然現れると、「行きたいところがある」というエミに振り回されつつも、閉ざされていたテルの心が徐々に変化していくのです。

エミの事故の陰にある、幼い頃に彼女を捨てた母親サオリ(和田清香)の存在。そして中盤からクライマックスにかけて次々と明かされていく、すべての登場人物が抱えるそれぞれの「生きづらさ」。それらが重なった時、全員で歌う表題曲「いつか」が稽古場に響くと、スタッフ一同ジーンとしながら聴き入りました。

初の通し稽古は、約2時間。動きや振付が加わり、板垣が「当て書き(俳優の個性に合わせてキャラクターを作ること)」をしたという脚本が、より立体的で、役者の個性が生き生きと輝くものとして可視化されてきました。

一回戦演じ切った役者たちの表情にも、充実感がにじみ出ていました。

 

 

藤岡:稽古でまだ試していない感情の線が自分の中で湧いてきたので、それをやってみました。見事に外したところもあったけど(笑)、課題が見えてきましたね。

皆本:流れに乗せられて「うーんっ!」って感じで、あっという間でした。一瞬でボロボロ泣いてしまいそうだった、感情を爆発しないように抑えつつ。面白かったです。第一歩です。

小林:もっとばたばたするかと思ったけど、うまくいってホットしています。場面転換の段取りもキャストがするのですが、スムーズにできたな、と。

荒田:通してやると、見えてくるものがたくさんありました。反省点も含めて。

内海:「あれも、これもできるんじゃないかな」って可能性が広がりました。抜き稽古では気づけなかったことだから、通してみて良かったです!

和田:通った、って感じ(笑)。芝居の組み立て事故みたいものも多発していたので、これから修正していきたいです。

入来:これまではテンション上げてやっていたけど、もっと普通にやってもいいのかな、って。もう一回作り直そうかな。頑張ります!

佃井:まだ、私の中では、チャレンジ、チャレンジ。アクションの部分も自分の中でマドカとリンクさせて、意味がある役作りをしたいと思っています。

初の通し稽古は自分を見つめ、全体を見つめ、試行錯誤が始まる第一歩。ここからさらに変化&進化して本番に臨みます。

文:桑畑優香

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